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2007/02/16

梨木香歩「からくりからくさ」

今日は、以前書いた「西の魔女が死んだ」に続いて読んだ梨木香歩作「からくりからくさ」をご紹介します。

蓉子の祖母が遺した古い家で女四人の共同生活がはじまります。糸を染める蓉子、機を織る与希子と紀久、鍼灸師を目指すマーガレット。静かな、けれどたしかな実感に満ちて重ねられてゆく日々、やさしく硬質な結界、その家にはゆっくりとした日常があったのです。しかし、葛藤や嫉妬ややるせない気持ちが沸き立ち始めることもあります。

そして、心を持つ不思議な人形「りかさん」を真ん中にした、四人とりかさんの生活を描きます。生命の連なりを支える絆を、深く心に伝える物語です。

「次はりかさんだ」と言う蓉子の台詞にエッとなった。祖母が亡くなったあとの家。喪に服すると言って眠ったりかさんを起こすのだという。何度読み返してもりかさんは人形だ。人形に関して世の中には三つのタイプがいて、もの凄く人形に惹かれて人形を家族のように受け入れる人、嫌ってまったく寄せ付けない人、まったく関心がない人。私も最初はどうでも良いように思っていましたが、読み進める内に受け入れても良いような気持ちになってきました。

網戸もなく、エアコンなんかもちろんない家。ヤブ蚊を防ぐために庭に生い茂る草は取り除こうと言うことになりますが、もったいないので食べてしまおう。草花や木の名前が分からないのがとっても惜しい。わたせせいぞうの「」の家のよう。植物の名前からイメージができて、分かったのなら、なお良いのでしょう。昔ながらの心豊かな生活とも言えるでしょう。

半襟、紬、縮、媒染等々、これまた分からない着物・染色の世界。分からないなりにも想像力を駆使したり、調べたり、人に聞いたりして、何とかイメージを広げました。

四人は不思議な縁によって、導かれ、この家に住むようになりました。「宿世の縁(すくせのえん)」と言う言葉で表現されています。「宿世」を辞書で引くと「前世」のことらしい。縁もゆかりもなかったはずの四人だったのに、その家での共同生活をしていく内に、血縁関係や様々な繋がりが明らかになっていきます。

そして、りかさんの謎。どんな経緯で主人公・蓉子の手元にやってきたのか?そこにも宿世の縁がありました。赤光・澄月の謎、唐草模様の意味等々不可思議なモノが蔦のようにからみつつ、物語は謎解きの要素も含んで展開していきます。この辺りが、ミステリが好きな私にとっては、別の意味でおもしろみがありました。日常にある不思議な繋がり。実はそこには縁があったりして。自分にも家系図があったら面白いだろうなとか、調べてみたら面白いだろうなと思います。

「西の魔女が死んだ」の時のように祖母から孫娘へと受け継がれるモノが描かれています。それを自然と活かす蓉子。憧れるマーガレット。家族の暖かさ。人間があるがままの生活を送ること。その中にある素晴らしさ。そしてそれを後生へ受け継いでいくこと。そんな、生活も素敵なんだと思わせてくれます。

感動的で良いシーンだなと思ったのは、失意の与希子が、森で見る蚕の孵化。子供の頃のトラウマで、蛾に対してあんなにも嫌悪していたのに、その誕生の時、与希子の中で何かが変わった。幻想的で、神秘的で、そして何より感動的。伝えることの意味、生まれてきた意味、崇高な想いに浸ります。

そして、クライマックス。三人展を開催すべく、共同で作品を作る蓉子、与希子、紀久。すべてが、この場面に集約されていきます。まるでドラマの、映画のラストシーンのように。その場面に対する登場人物たちの想い、充足感、悲しみ、怒りがあらわになります。が場面は音もなく終わろうとします。

ラストシーンまで不思議な感覚が漂いますが、少し怖くもありますが、でも感動的でもあります。運命というのはきっとあるし、出逢うべき人はきっといる。そして、人間の身体はお旅所であるから、その時をどう過ごすか?どう生きるか?そして、何を伝えるか?そこが重要なのかもしれないと思わせてくれます。「西の魔女が死んだ」とは違った意味の感動を覚えました。

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