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2007/09/18

初野晴「水の時計」

今日ご紹介するのは初野晴(はつの せい)著「水の時計」です。

本作はオスカー・ワイルドの「幸福の王子」の要約で始まります。金箔に覆われた王子の像。宝石もちりばめられていた。王子は自分の身体の金箔や宝石を貧しい人々に運んでくれと燕に頼みます。燕は旅立つ日を遅らせて、運び続けます。そして、運ぶ物がなくなった時、燕は力尽き、みすぼらしくなってしまった王子の像は溶かされてしまいます。しかし、鉛の心臓だけは溶けずに残りました。

誰もが一度は聞いたことのある「幸福の王子」。本作はこの物語をモチーフに描かれていきます。

暴走族の幹部である少年・高村昴は、ある事件の容疑者として追われていた。そんな時、謎の老人・芥(あくた)が現れ、窮地を救ってくれた。連れて行かれたのは山の上にそびえ立つ廃病院。そこで待っていたのは機械に繋がれた少女・葉月。

葉月は医学的に脳死と診断されていた。しかし、月明かりの夜に限り、特殊な装置を使って言葉を話すことができる。延々と死に続ける少女。生きているのか、死んでいるのか、分からなくなってしまう昴。あまりにも残酷な現実。葉月が昴に望んだのは、自らの臓器を、移植を必要としている人々に分け与えることだった。

かすかに聞こえる葉月の声。最初は戸惑いながらも、今までしてきたことの贖罪をするかのように、臓器をひとつ、またひとつと運ぶ昴。昴には親はなく、ただ一人の肉親の兄は回復の見込みもなく病院に・・・。その姿を葉月に重ねる昴。その昴を目の敵にして、執拗に追い続ける暴走族の幹部の一人高階。生活安全課の堀池と魅力的な登場人物が並びます。

適合者リストの中から選択するのも昴の仕事。どんな人にどの臓器を提供するのか?物語は昴と葉月を第三者的にしながら展開します。視力が徐々に弱くなっていく少女、海外での腎臓の移植を考えているOL。それぞれに、それぞれのドラマがあるのです。そして、昴の中学時代の恩師は、心臓病に苦しんでいた・・・。父親のように慕っていた恩師。生きて欲しいと懇願する昴。感動的で、涙が溢れそうでした。そして、感動的なラストシーン。

月の光と共に話す少女と暴力的ではあるが、命の尊さを知る少年。ふたりの因縁は・・・。そして、「水の時計」は止まってしまうのか・・・。透明感あふれる筆致で生と死の狭間を描き、生きる意味を問う感動作。ファンタジックに現代の寓話をミステリーとして描いた本作。オススメです。

きっとまだ、できることがあるはず。

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