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2007/10/29

「約束の旅路」私的映画考Vol.109

今日、ご紹介するのは「約束の旅路」です。ラデュ・ミヘイレアニュ監督作品。出演:ヤエル・アベカシス、ロシュディ・ゼム、モシェ・アガザイ、モシェ・アベベ、シラク・M・サバハ、イツァーク・エドガー、ロニ・ハダー、ラミ・ダノン他。

1984年、スーダン難民キャンプ。エチオピア系ユダヤ人だけがイスラエルへ救出されることを知ったひとりの母親が息子を手放した。最愛の我が子だけは生きて欲しいと願って。「何者かになるまでは戻ってくるな」と告げる。そして、少年は見知らぬユダヤ人女性の手を借り、イスラエルに到着した。その9歳の少年は、シュロモというユダヤ名を与えられる。やがて裕福で優しい夫婦の養子となるが、本当はユダヤ人でないことを誰にも打ち明けられず苦悩する・・・。

本作を観るまで、エチオピア系ユダヤ人の存在を知りませんでした。もともと歴史に疎い私ですが、政治・宗教にも疎い。世界情勢に関心がないと言ってしまうのはカンタンですが、それでは済まされない問題を扱っているのが本作です。

実際にあった、エチオピア系ユダヤ人をイスラエルへ帰還させる「モーセ作戦」からの着想で作られたフィクションではありますが、現実の社会での出来事も取り入れられています。故に、真実みをおびた迫力を感じます。

黒人少年は、ユダヤ人と偽って、ユダヤ人が楽園と描く聖地エルサレムへと向かいます。シュロモと付けられた少年は、シャワーに驚き、水が流れるのを止めようとし、靴を履きます。すべてが初めての体験。都会の生活の中で、ときおり靴を脱いで地面を踏みしめ、歩き出すのが印象的で、それが本来の自分の姿であることを実感しているに違いありません。

そんな中に、イスラエルの文化、宗教、複雑性が垣間見えてきます。そして、社会、政治、国家、生活習慣の一部を知る事ができます。それは決してすべてではありませんが、自分自身が常識としていた世界とはまるで違うモノ。シュロモにとってもすべてが常識外だったのでしょう。受け入れられずに孤独感を強めていきます。

そして、いつも見上げるのは夜空に輝く月。母を想う。月はどんなに遠く、祖国を離れても同じく輝き続けていてくれる。自分を見守っていてくれる。だから、前に進まなければ行けないと。

母親に「何かになれ」と言われた少年・シュロモには、何になればいいのか、どうすればいいのか分かりません。そして、たえず人種問題や宗教問題で絶えず悩まされ続けます。自分の居場所はどこなのか?為すべき事は何なのか?葛藤はつづきます。そして、いつしか少年は大人になっていきます。そして、自分の進むべき道を見つけます。

自分を信じ、何を為すべきか、どう生きるべきかを考える事が、自分のためになるのだろうし、人のためにもなるのでしょう。それが、人命を救うことに繋がるのであればこんなに素晴らしいことはないはず。人間は気高く、人生は素晴らしい。だから、あきらめてはダメだ。そう思い続ければ、きっと、一筋の光が見えてくるはずだから。

祖国のない、根無し草のユダヤ人。そして、ユダヤ人として偽り続け、生きてきた青年。どこへ行けばいいのか。文化や宗教を越えた世界はできるのだろうか。我々にできることは何なのか。様々な問題を含みつつ、現実に愕然としながらも、最後にはそこはかとない感動が打ち寄せる作品になっています。

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