「パンズ・ラビリンス」私的映画考Vol.113
先日、「パンズ・ラビリンス」を観てきました。ギレルモ・デル・トロ監督作品(「ヘルボーイ」「ブレイド2」)。出演:イバナ・バケロ、セルジ・ロペス、マリベル・ベルドゥ、ダグ・ジョーンズ、アリアドナ・ヒル他。第79回アカデミー賞撮影賞・美術賞・メイクアップ受賞作品。
1944年、内戦終決後のスペイン。父を亡くした少女オフェリア(イバナ・バケロ)は、身重の母と共に再婚したフランス軍のビダル大尉(セルジ・ロペス)のいる駐屯地へと向かう。そこは、ゲリラが潜む森の近くだった。臨月の母を労りながらも、冷酷な義父に馴染めないでいたオフェリア。
そんな彼女の前に妖精が現れ、森の中へと導く。石段を下りた場所、迷宮の入り口ではパン(牧神)が王女の帰還を待っていた。オフェリアは地上に出て、記憶を失ってしまった王女の生まれ変わりだというのだ。そして、オフェリアは魔法の王国に戻るために三つの試練を与えられるのだった。
予告編を見たときには、異世界に迷い込んだ主人公の少女が繰り広げる冒険譚を予想していましたが、見事に裏切られました。それは良い意味で裏切られた感が強いです。迷宮と現実の世界を行ったり来たりしながら物語は展開します。
痛みも悲しみも感じない魔法の王国が地下にあるという。本を読むのが何よりも大好きな少女・オフェリア。オフェリアの見る現実の世界には、良いことなんかなにひとつないように見えたのでしょう。殺戮が繰り返され、痛みも、悲しい出来事も多すぎる。それが現実。でも、そこで生きねばならない。
唯一、母親と過ごす時間と、生まれてくる弟との日々を思い描くことだけが、オフェリアの安らぎの時だったのでしょう。戦争という厳しい時代から逃げ出したくなって、地下の迷宮に降りていくオフェリアの気持ちも分かります。そこに立ちはだかるのは、三つの試練。それをやり遂げなければ、王女として戻ることはできないのです。
独特の世界観を作り出している映像は秀逸です。森の中の駐屯地、その周りにある森、そして迷宮の入り口。うっそうと茂った森の中は、今にも何かが出てきそう。それと対比的に登場する迷宮。オフェリアは試練のために勇気を振り絞って入ります。そこは現実とは違って明るい世界。色づかいが対照的。しかし、登場するクリーチャーは不気味そのもの。妖精こそ動きは愛らしいモノの、アップになったらきっと不気味でしょうし、パンもかなり不気味です。極めつけは、手の平に目を持つ怪物。これは凶悪です。
しかし、最も凶悪なのは現実の世界にいるビダル大尉、その人に違いありません。オフェリアの義父であり、駐屯地の指揮官。人を人と思わぬ言動、無表情のまま冷酷なまでに、人を殺す様は、凶悪。恐怖により人間を支配しようとします。オフェリアは聞いてしまうのですが、生まれてくる我が子のためには妻であるオフェリアの母はどうでも良いとまで言うのです。戦争が彼をそうさせたのかもしれませんが、許されることはないのでしょう。歯止めのきかなくなった人間の業ほど恐ろしいモノはありません。
劇中、ビダル大尉がひげを剃るシーンが数回ありますが、彼の行く末を暗示させていたのでしょう。他にも細かな表現が伏線のように、後のシーンへと繋がっていく構成も見事です。
夢のような魔法の国、そして地獄のような現実。いったい、どちらの世界が良いのでしょう?人生はおとぎ話ではなく、生きるという現実は厳しいのです。思うようにいかないこともあるし、欲望に駆られることもあるでしょう。魔法の王国から来た王女は、オフェリアとなって現実の世界に現れ、迷い込んだのは人生という迷宮だったのでしょう。
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