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2008/04/27

坂木司「青空の卵」

今日ご紹介するのは 坂木司・著「青空の卵(創元推理文庫)」です。

坂木司と友人の自称ひきこもり・鳥井真一。複雑な生い立ちから心を閉ざしがちな鳥井を、外の世界に連れ出そうと日夜頑張っている。そんなある日、スーパーで出会った女性にと知り合うことになる。一方、男性ばかりを狙ったストーカー事件が多発するが・・・。坂木は身近に起こった様々な謎を問いかけ、鋭い観察眼を持つ鳥井は、少ない手がかりから次々と謎を解く、一風変わったミステリー。

坂木と鳥井は、ワトソンとホームズとなって謎を解くと言う図式はあるのですが、殺人事件が起きたり、強盗事件が起きたりはせず、日常のちょっとした謎を突き詰めていくと言う感じです。

しかし、鳥井はひきこもり。仕事はコンピュータ関係で家にいながらにして喰っていける様子。そんな鳥井には悲しい過去があり、それが原因で人間不信がはじまり、親に捨てられた悲しみ、裏切り、絶望、孤独に苛まれていき、ひきこもりになっていったのでした。

そんな鳥井に坂木はべったり。高校時代の同級生で警察官の滝本の台詞で、「本質的な主導権は変わってない」とのこと。横柄な物言いで、一見、態度の大きい鳥井でしたが、気弱な坂木に対しては、絶対の信頼を置いているのが分かります。そこが、本質的な主導権の在り方なのでしょう。

「夏の終わりの三重奏」では、ストーカー事件を追い、「秋の足音」では、盲目の青年の悩みを解消し、「冬の贈りもの」では歌舞伎役者への贈り物の謎を解き、「春の子供」では、言葉を話せない少年を親元に届けます。

それぞれのエピソードで、坂木はなにかと首を突っ込みます。時としてお節介とも取れる行動をしますが、そこがこの物語のポイントとなるのでしょう。鳥井から絶対の信頼を置かれている坂木は、良い行いをしようと心掛けています。坂木は鳥井の良心であるからです。だから困った人がいたら手を貸さずにはいられないのです。

「優しさ」と言う言葉はありますが、見ず知らずの人に優しくしてあげられるでしょうか。煙たがられたり、怪しまれたり、そんなことを恐れているばかりで、なにもしてあげられない。困っているのかもしれないけど、手をさしのべてあげられない。そんな経験が誰にもあるはず。でも、そんな時、ちょっとの勇気を出して優しくしてあげればいい。それが、新しい絆になっていくのでしょう。

4つの中編と1つの短編からなる連作小説集ですが、登場人物が、次回以降のエピソードにも登場することによって、人と人との輪が繋がっていくように思えます。引きこもりだったはずの鳥井。でも、様々な出来事を通して係わっていく中で、人々との絆とも言える人間関係が生まれていくのです。そして、少しずつ変わっていく。いつかきっと青空を見上げることが出来るはず。

行間が見事で、行間から溢れ出るような想いが伝わってきます。それは文字通りの行間で、ここぞという瞬間には、空白行が挿入されています。それが余韻となって、その想いが伝わってくるのです。三人称で進む物語も、ときおり坂木の一人称になります。それはあまりにも感情が昂ぶったとき。押さえきれない感情を表現しています。

ミステリーだと思って手にした本書でしたが、人間の心の機微を見事に描いたヒューマンドラマでした。本作「青空の卵」は三部作の一作目で、読み終えた後には爽やかな感動があり、すぐに続きが読みたくなりました。なので、二作目「仔羊の巣」、三作目「動物園の鳥」を発注しました。まだ読んでいませんが、この先、ふたりはどんな物語を見せてくれるのか、楽しみです。

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