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2008/09/13

坂木司「動物園の鳥」

 

今日ご紹介するのは 坂木司・著「動物園の鳥(創元推理文庫)」です。ひきこもり探偵シリーズ一作目「青空の卵」、二作目「仔羊の巣」に続く、三部作の完結編。

春の近づくある日、鳥井真一のもとを二人の老人が訪ねてきた。年上の友人でもある木村栄三郎さんと、その幼馴染みの高田安次朗さんだった。高田さんがボランティアで働く動物園で、野良猫の虐待事件が頻発しているという。さっそく鳥井と坂木は動物園へ出向き捜査を開始。鳥井が掴んだ真実は・・・。

前2作は、連作短編集でしたが、三作目の本作はシリーズ初の長編。坂木と鳥井は、ワトソンとホームズとなって謎を解くと言う図式はあるのですが、殺人事件が起きたり、強盗事件が起きたりはせず、日常のちょっとした謎を突き詰めていくと言う感じです。

ひきこもりの鳥井真一が、今までの事件を通して出会い、紡ぎだした輪。緩やかだけれど確かな絆。その友人知人たちが登場し、事件を解くのですが、そこに、鳥井の過去、ひきこもりとなった出来事が絡んでいきます。思い出してしまう中学校時代の悪夢のような日々。

行間はあいかわらず見事で、ここぞという瞬間には、空白行が挿入されています。行間から溢れ出るような想いが伝わってきます。静かに近づく別離の予感。いまにも泣き出しそうなほどの決意。こころが弱い人間。支えられて生きてきた。相手を守っているつもりが、相手にすがっていた自分。

そして、旅立ちの時。事件を解決した後、とうとう別れの時が来ます。鳥井は外の世界に飛び立てるのか。みんなが、大人にならなければいけない。

様々な人間模様を描いてきたこのシリーズ。本作にもいろんな人間が登場します。その中に、自分の姿を見つけることでしょう。色々な人間がいるように、色々な考え方があります。それはごく当たり前のことでなのですが、気づいていないことが多いのです。

何が正しく、何が間違いか、それは分かりませんが、日本人に欠けている思われる、宗教観。道徳観≠宗教観なだけに、壊れる常識。そこから派生する出来事、事件。みんなが優しさを持って、愛情を持って、思いやる心を持てば、きっと世界は変わるに違いない、そう思わせてくれます。

ミステリーと言う枠を越え、現代社会の歪み、人間の心の機微を見事に描いたヒューマンドラマ。感動のラストをぜひお読みください。

 

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