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2009/05/04

「ブレス」私的映画考Vol.182

今日ご紹介するのは「ブレス 」です。キム・ギドク監督作品(「絶対の愛」「」「うつせみ」)。出演:チャン・チェン、パク・チア、ハ・ジョンウ他。

死刑囚のチャン(チャン・チェン)は、キリで喉を突いて自殺未遂を図り、声を失った。夫と幼い娘と優福に暮らす主婦のヨン(パク・チア)は、ある日夫の浮気を知る。まったく悪びれる様子のない夫に怒りを覚えたヨンは、テレビのニュースで知った死刑囚チャンの自殺未遂に不思議な同情を覚え、彼に会うために刑務所へと向かう。面会を果たしたヨンは、次第に彼に惹かれていくが・・・。

残されたわずかな時間にまったく未練はないチャン。衝動的に何度か自殺を図ります。声を失い、台詞はまったくありません。同房の男たちも、また口数が少なく、そこには様々な想いもあるようです。熱い瞳で見つめる若い囚人も。

一方、主婦のヨン。夫の浮気を知り、どこかふさぎ込んでいるよう。静かに怒りをふつふつとたぎらせているごとく、狂気冴えも感じられます。

洗濯物の夫のワイシャツを、静かに放り投げるシーンがあります。最初は不可抗力かと思いましたが、そうではなくわざと落としてるようでした。慌てる様子もなく、ゆっくりと拾いに行きますが、偶然にも車が通り抜け、下敷きになります。そして、汚れたワイシャツをじーっと見つめ、何をするかと思えばおもむろに屋外にあるゴミ箱へ。怒りを露わにするのではなく、静かにジワジワと忍び寄る怒りを通り越し、憎悪となっているようでした。

狂気ともとれる行動は続きます。偶然知った自殺未遂をおこした死刑囚。ヨンは真っ白で殺風景な刑務所の面会室を、四季折々の写真を大きく印刷し壁紙を貼り付け、極彩色の美しい部屋へと変えていくのでした。春、夏、秋。真冬の寒さが身に染みる季節が、まるでふたりの思い出を懐かしむように語り合うかのようなシーンに変わっていきます。

短い時間を過ごすふたり。それを監視カメラの映像からじっと見つめる刑務所長らしき男。楽しむかのような意志を感じます。目的は最後まで明かされません。

全編を通して、いつもながら台詞が少なめで、状況説明的な台詞は皆無です。感情表現もまた表情で推し量るしかなく、解釈は観る人によって異なるかもしれません。それでも、そこに生きる人々の想いや愛にも等しい感情が痛いほど伝わってきます。

そして、ラストシーン。それは、本当に愛なのか、それとも哀れみなのか、同情なのか。嫉妬から来る憎悪、それが究極の愛なのか。なんとも言えないもどかしさを感じます。同情、そして、復讐心から自分を貶めているのか。それが愛に変わる。そして、呼吸を止めさせる事も愛なのだろうか。キム・ギドク作品を観ていると、愛とはいったい何なのだろうと考えさせられてしまいます。

自殺願望のある死刑囚と、夫の浮気に絶望する主婦の奇妙な関係を描きつつ、生と死、そして愛を綴る人間ドラマ。

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