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2009/08/04

「その日のまえに」私的映画考Vol.195

今日、ご紹介するのは、大林宣彦監督作品「その日のまえに」です。監督:大林宣彦(「転校生 さよならあなた」「22歳の別れ」「なごり雪」)、原作:重松清、脚本:市川森一。出演:南原清隆、永作博美、筧利夫、今井雅之、勝野雅奈恵、山田辰夫、峰岸徹他。

日野原健大(南原清隆)は売れっ子のイラストレーター。売れない時代から支えてくれた妻のとし子(永作博美)と二人の息子と暮らしていた。ある日、ふたりは昔住んでいた町を訪れる。18年ぶりに訪れた町は懐かしさで一杯。 体の不調を訴えたとし子は、検査の結果、突然の余命宣告を受けていたのだ。二人は相談し、来るべき“その日”を迎える準備を始める。結婚当初に暮らしていたアパートを訪れ、“その日”までの人生をここから始める事にするのだが・・・。

中心になるのは、日野原家ではありますが、原作で描かれているいくつかの物語が、少しずつ絡み合いながら、展開していきます。様々なひとびとの、様々な生と死が交錯していきます。

さらに、宮沢賢治の詩「永訣の朝」が物語をつないでいきます。それを彩るチェロの音色。舞い散る雪。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」どこか不可思議なイメージを受ける詩に、メロディが付けられ歌われます。チェロを弾きながら歌うのは謎の青年・くらむぼん君。「永訣の朝」をもって、いくつもの物語が見事に融合されていきます。

見ているうちに、感情移入していき、「その日」が近づいたとき、家族に、友人に何を残せるのか。残されたモノは何を思うのか。と言う思いが駆け巡ります。そして、死にゆくモノが自ら準備をすること、それは残されるモノにとっては、とてつもなく悲しく、むなしく、切ないことなのかもしれません。

印象的なのが、仕事をする健大の使うえんぴつが、テーブルから落ちるシーン。転がるえんぴつは、放っておけばいつか落ちてしまう。あの日、あのとき、ああしておけば良かったのか。後悔が募ります。大切なモノはしっかりと抱きしめていないと零れ落ちてしまう。でも、それは、今ではどうしようもない。これからをどう生きるか。「その日」をいかに迎えるのか、そこが問題。

本作はお涙ちょうだいの難病モノではありません。死を意識したが故に、残された時間を懸命にくっきりと生きてみせようと覚悟をした人と、それを見守る家族の物語なのです。涙はありません。そこには、明るく楽しく生きていた、十分に生きた証をもって、誇らしく、生きる姿があるのです。

しかしながら、永作博美演じるとし子が時折見せる、いたずらっぽい笑顔が、かわいらしくもあり、いじらしくもあり、それが逆に切なく悲しい。一度だけ、とし子が泣きじゃくるシーンがありますが、笑顔との対比として、感動的に描かれています。

ズバリ泣き所は、ラスト30分。感動で涙が止まりません。送る者の使命は、生を褒め称えることで、見送ってあげること。笑って見送ること。それが自分自身できるのだろうか。いくつもの物語が紡ぎ出す命の尊さ。ノスタルジックでファンタジックに描きます。

余命を宣告された妻とその夫が、「その日」までを懸命に生きる姿と、関わる周囲の人々の物語を描く感動作。70歳の新人が新たに描く、これまでの集大成と言わんばかりの「大林ワールド」になっています。

笑っても人生、泣いても人生、一所懸命生きましょう。

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